【寄稿/第6回】腸内フローラとクオラムセンシング

寄稿・ブログ

(株)光英科学研究所 代表取締役会長

村田 公英 氏

 私たち人間が、言葉を用いて他人とコミュニケーションを取りながら生活しているように、腸内フローラを形成している細菌たちも常にコミュニケーションを取りながら生命活動を営んでいる。

 ヒトと違って目も口も耳も鼻もない細菌は、増殖する際に栄養を摂りながら体外へ代謝産物を放出してコミュニケーションを取る。

 腸内細菌にとって腸内という環境は生存競争の非常に激しい場となるが、それは100兆個以上もの細菌が腸内フローラを形成して高密度に生息しているからである。

 ここで注目されるのが、腸内フローラを正常に保つための遺伝子の働きの一つ、すなわち「クオラムセンシング」である。

 細菌が増殖して菌数が多くなり、ある一定の数に到達すると、特定の遺伝子が発現する。そして、腸管内にいる細菌とコミュニケーションを取って腸管に定着させる。これを学術的にはクオラムセンシングという。

 ここで、たまたま入って来た悪玉菌がクオラムセンシングを行い、遺伝子が発現すると、病原因子や毒素など攻撃的なものが産生されるが、このような場合もいち早く腸内フローラからの遺伝子で制御する。この制御された代表的なものが、私たちがよく知るペニシリンである。

 このようにして、正常で美しい腸内フローラは生涯にわたって、ヒトの健康を決定づける力を維持している。素晴らしいことだと思う。

 健康長寿のためには、腸内フローラが正常に活動できるように食生活やストレスなどに気を配る必要がある。さらに、加齢とともに腸は衰えていくため、常にメンテナンスを続けることが望ましい。

 クオラムセンシングの語源は、英国議会の「定足数」(議決に必要な定数)が由来。細菌が一定数以上となってはじめて特定の物質が産生されることを政治的な合議決定になぞらえて呼んでいるわけだ。

第5回/第6回/第7回

コメント