【解説】トクホの疾病リスク低減表示、暗礁に乗り上げた検討作業

「食」の機能性

 特定保健用食品(トクホ)制度の復権に向けて、消費者庁は昨年12月25日、「特定保健用食品制度(疾病リスク低減表示)に関する検討会」をスタート。トクホ制度だけに認められている疾病リスク低減表示の拡充により、機能性表示食品制度と差別化を図る思惑がある。ところが、議論は迷走し、検討作業は暗礁に乗り上げた。

 トクホ制度は1991年にスタートし、2019年度時点の許可件数は1,072件。一方、15年に創設された機能性表示食品制度の届出は約3,700件に上り、トクホを圧倒している。

 どちらの制度も「血糖値が高めの方に」「おなかの調子を整える」など、健康への効果を表示できる。ただし、現在のところ、トクホで許可されている表現の範囲は狭く、機能性表示食品と比べて見劣りする。商品開発にかかる費用も、トクホと比べて段違いに安くつく。このため、業界の「トクホ離れ」は顕著となっている。

 トクホ制度を所管する消費者庁や、許可審査を行う消費者委員会では「トクホ離れ」に危機感を抱く。そうした事態を打開するため、消費者庁が打ち出したのが、トクホだけに認められている疾病リスク低減表示の拡充だった。

 疾病リスク低減表示は、具体的な疾病名を表示できる。疾病名の表示は、機能性表示食品でさえもNGだ。

 疾病リスク低減表示は現在、「カルシウムと骨粗しょう症」と「葉酸と神経管閉鎖障害」の2つがある。その拡充へ向けて消費者庁は検討会を設置し、昨年12月25日に初会合、今年1月22日に2回目の会合を開いた。

 第2回検討会で消費者庁は案を示した。だが、議論自体が成り立たないという指摘が複数の委員から相次いだ。

 消費者庁が示した案は、次のようなものだ。

・「カルシウム、ビタミンDと骨粗しょう症」「ビタミンDと転倒」などの表示の追加。

・摂取量を減らすことによる「ナトリウムと高血圧症」といった表示の導入。

・対象成分を限定しない「穀物・果物・野菜とがん」といった表示の導入。

 この案に対して、多くの委員が「トクホと海外の制度はかなり異なり、海外の例は参考にしてはいけない」と批判。「ビタミンDを入れてほしいというのではなく、食事摂取基準を考えたうえで丁寧に議論すべき」などの声が相次いだ。

 消費者庁の案に対して、多くの委員がダメ出しするという異例の展開となった。その原因について考察する。

 今回の施策は、水面下で健康食品業界から持ちかけられたものと言われている。消費者庁が犯した最大のミスは、海外諸国の制度とトクホ制度の設計が異なるにもかかわらず、「欧米のように表示を広げてほしい」という業界の要望を受け入れてしまったことだ。

 トクホ制度は独自の基準に基づいて運用される。このため、欧米の事例をそのまま反映させることには無理がある。

 次に、国の栄養政策と整合性を取る必要があるにもかかわらず、その配慮が欠如していたことがある。

 厚生労働省の「食事摂取基準2020年版」策定に関する検討会(18年4月~19年3月)では、ビタミンDについて時間を割いて検討した。ビタミンDは食事以外に、日光を浴びることによって体内でも産生される。判断を誤ると、国民を過剰摂取に導く恐れがあるため、慎重にビタミンDの摂取基準を決めたわけだ。

 一方、今回の検討会では、欧米で認められているという理由だけで、ビタミンDを追加しようとしている。本来ならば、国の栄養政策と整合性を取るため、最初に交通整理を行う必要があったと言える。

 「減塩」による疾病リスク低減表示や、関与成分を限定しない野菜・果物の疾病リスク低減表示についても、トクホの定義や制度設計を見直さない限り、議論の俎上に乗せることが困難と考えらえる。

 各委員が強く反発したのも、そうしたことが背景にある。

 検討会は3月の最終会合で、方向性を取りまとめる。だが、ここまでの検討状況を見る限り、具体策を打ち出すことは困難とみられる。

(木村 祐作)

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