「葛の花」事件の教訓はどこへ?
健康食品業界に動揺を与えた「認知機能」機能性表示食品の広告に対する一斉指導。「事後チェック指針」に基づきインターネット広告を監視した結果、131商品で問題が見つかった。
機能性表示食品の取り締まりで有名なのは、2017年11月の「葛の花由来イソフラボン」配合商品を対象とした行政処分。販売会社16社が景品表示法違反に問われた。この事件を機に策定されたのが、消費者庁の「事後チェック指針」。今回の一斉指導でも用いられた。
ある販売会社によると、「実名で公表された『葛の花』事件ほどの衝撃はないが、『認知機能』の行政指導も業界にとって相応のインパクトはある」という。今回の一斉指導の背景には、事後チェック指針に対する業界の認識不足がある。
事後チェック指針を解しているのか?
消費者庁から指導を受けた115事業者は、どのような点でミスを犯していたのだろうか。一斉指導のポイントを事後チェック指針に基づいて、主に4項目について考察する。
ポイント1
指導事例に、商品の対象者が中高年であるのに、「受験生の考える力を鍛えるために」などと表示していたケースがある。各社とも、40歳以上や50歳以上を対象としたヒト試験の結果を科学的根拠に用いている。若年層を試験の対象としていないことから、10代・20代に対する効果は不明。このため、若年層に向けた宣伝はできない。
ポイント2
次に、届け出た文言の一部を切り出した表示も見つかった。例えば、届け出た文言が、「認知機能の一部である記憶力(言葉・数字・図形・位置情報)を維持」という商品について考えてみよう。
この商品では、ヒト試験の結果を基に、記憶力のうち、言葉・数字・図形・位置情報を覚え、維持する機能が確認されている。それにもかかわらず、一部を切り出して「記憶力を維持」と宣伝すると、消費者は記憶力全般に対して効果があると誤認してしまう。
記憶力には幅広い領域がある。しかし、宣伝できるのは届け出た範囲内に限定される。
ポイント3
事後チェック指針では、「解消に至らない身体の組織機能などの不安や悩みの表示」を禁止している。今回の一斉指導でも問題視された点だ。
例えば、「よく知っている人の名前のはずなのに出てこない」「物をしまった場所がわからなくなる」といった悩みを列挙した広告などが改善指導を受けた。
「認知機能」の機能性表示食品で期待できる範囲は「維持・サポート」にとどまり、指導事例に挙げられたような悩みを改善できるわけではない。消費者庁では「悩みの解決に関する表示は、一つひとつ突き詰めていくと改善につながる」(表示対策課)と説明している。
ポイント4
試験データやグラフの使用方法についても、不適切な広告が見つかった。指導事例に、「有意な改善が確認できた」という説明とともに、試験データのグラフを表示していたケースがある。
問題視されたのは、消費者に改善すると誤認させる点だ。機能性表示食品の科学的根拠として、「二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験」と呼ばれるヒト試験の結果が用いられる。当然、機能性表示食品を摂取した被験者グループはプラセボ食のグループと比べ、スコアが有意に低下(または上昇)している。グラフで見ると、効果の違いが明確にわかる。
だからと言って、グラフを用いて“改善”効果を強調した場合、届け出た文言の「維持・サポート」を逸脱してしまう。
ある業界団体の関係者は、「トクホ企業はグラフの利用の注意点を理解しているが、それ以外の企業はそうでないかも」と話している。
一斉指導は始まりに過ぎない
今回の一斉指導はインターネット広告が対象だった。しかし、不適切な表示は商品パッケージでも散見される。商品パッケージの表示も取り締まりの俎上に乗せることが、喫緊の課題と言える。
このほかにも、積み残し課題がある。研究レビューによって有効性を確認した場合、「…という機能が報告されている」と表示しなければならない。ところが、各社の広告・表示を見る限り、必ずしも順守されていない。
今回の一斉指導は、不適切な広告・表示の一掃へ向けた序章に過ぎないようだ。
(木村 祐作)
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