【寄稿/第36回】乳酸菌の正体と腸内環境

寄稿・ブログ

(株)光英科学研究所 代表取締役会長

村田 公英 氏

NHKが腸内細菌育菌術を紹介

 今年も異常気象が続き、やっと全国的に2週間遅れの梅雨入りとなった。梅雨寒(つゆざむ)という季語をご存知と思うが、この時季は雨が降り続き、思ったより朝夕冷える日が多く、若い人ならいいのだが、免疫力の低下したシニアではいわゆる夏風邪を引き、重症化して大事に至ることがあるため、こまめにエアコンの調整や着衣の工夫をすることが肝要かと思う。

 さて、本題に入る。先日、ある友人から「NHKのあしたが変わるトリセツショーにて、腸内細菌育菌術を放送するので見てごらん」とのメールが届いた。これを見た読者も多いと思う。

 内容については、腸内細菌と食事について一般的に知られている事柄であり、腸内細菌を育菌するには食物繊維を重点的に食事に取り入れることが大事、という結論だった。

 ご存知の通り、腸内細菌の主役は善玉菌である乳酸菌である。そして私は63年間に渡って乳酸菌生産物質の研究に携わり、長年、乳酸菌とは良い友達として生活を共にしてきたと自負している。

 そこで、主役である乳酸菌の働きや、乳酸菌が醸し出す諸々の事象について、私の考察を含め、何回かに分けて話したいと思う。

乳酸菌の食物繊維の豪快な食べっぷり

 まず第1回目は、実験中に目視した乳酸菌の食物繊維の豪快な食べっぷりについて話したいと思う。

 今から20年ほど前のこと、私は乳酸菌生産物質を製造する際に元菌(種菌)となるスターターの試験をする作業をしていた。

 普段は培地として豆乳を使用するのだが、理由があってその時は「おから」を含んだ豆乳を使った。つまり、食物繊維が混在している培地である。

 すると、試験を始めてしばらくすると、ある変化に気付いた。培地の粘度が発酵前と比較して格別に高くなってきているのである。そして時間の経過と共にどんどん粘度が高くなり、試験が続けられなくなり、試験管から別の試験管へ培地が移せなくなるほどになった。

 試験を始めて2時間半くらい経過したが、普段の豆乳だけの実験では、ここまで早いスピードで粘度が高くなることはない。

 乳酸菌にしてみると、豆乳の栄養物の中に「おから」という食物繊維が混在しているので、大好物の「おから」をエサにしてどんどん増殖し、そして代謝物として放出された有機酸等が培地の粘度を高めたものと思われる。

 食物繊維のチカラを目の当たりにして、まさに「目から鱗」であった。

 そして、その時の実験に用いたのも、1種類の菌ではなく、選び抜かれた16種の菌であった。培地中の「おから」を16種類がみんなで協力し合って食べたのだろう(ここで1種類の単菌で試験をしてみるというテーマも考えられるが、当社は複合菌を基本として開発を進めており、あえて単菌の試験は行っていない)。

劣化が進んだ腸内細菌の育菌は困難

 話は戻るが、NHKのトリセツでは、諸々の理由により劣化した腸内細菌を育菌して元気にするには、食生活を食物繊維中心にすることが最も有効であると結論づけていた。

 私も20年前の実験でその通りと感じているが、腸内細菌である乳酸菌の立場からすると、腸内環境が劣化している状況によっては、いくら腸内に食物繊維や栄養物を与えられても、それに応えられないという現実があると思う。

 そして、食物繊維を食べても腸内細菌のエサにはなっても、菌そのものの復元は望めないということである。私の長年の経験からすると、劣化が進んだ菌はいくら栄養を与えても活性が戻ることはないし、かといって、腸内細菌を体外から補充しても長く定着させるのは困難である。

 腸内細菌は人間が生まれた瞬間からおなかの中に棲みつき、一生を共にする存在である。自然の摂理から見ても、食物繊維の摂取や菌そのものを摂ることに頼るだけでは、劣化が進んだ腸内細菌の育菌は不可能に近いのではないか、と私は考えている。

 もちろん、自身の腸内細菌と上手に付き合い、100歳長寿のための腸内環境であるためには、長年に渡る食物繊維を中心にした食生活が必須である。そのためには、早目の食生活の改善がその人の健康を決定するといっても過言ではないだろう。

 次回からも、私の長年の友である「乳酸菌」の本当の働き、正体について話していきたい。

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